100円ショップの材料からラジコン飛行機を設計する
ラジコン飛行機の設計には、専門的な材料や高価な設備が必要だと思われがちです。
しかし、材料の選び方と設計方法を工夫すれば、100円ショップなどで入手できる素材を使って、実際に飛行可能なラジコン飛行機を制作することも可能です。
エンジニア系クリエイターとして活動する「紙の穴」の西村眞吾氏は、3次元CAD、3Dプリンター、レーザー加工機などを活用し、さまざまな模型や立体物を設計・制作しています。
今回紹介するのは、1.5mmのEVAシートとカラーボードを主な材料として、総重量100g以下のラジコン飛行機を設計する方法です。
単に飛行機の形を作るのではなく、主翼や尾翼の面積、モーメントアームなどを計算し、飛行の安定性を考慮しながら設計を進めます。
「紙の穴」西村眞吾氏とは
「紙の穴」の西村眞吾氏は、3次元デジタル設計技術を活用して、模型やペーパークラフト、立体物などを制作するエンジニア系クリエイターです。
3次元CADを使ったモデリングだけでなく、レーザー加工機や3Dプリンターによる部品加工にも対応しています。
西村氏の特徴は、デジタル上で立体物を設計するだけでなく、実際に組み立てられる部品へ分解し、加工用データまで作成できる点です。
今回のラジコン飛行機にも、ペーパークラフトの展開図を設計する技術が活用されています。
完成形だけを見るのではなく、内部フレーム、胴体外被、主翼、尾翼、可動部分まで細かく設計し、実際に加工・組み立てられる状態へ落とし込んでいきます。
CADを使ってラジコン飛行機の基本形状を作る

ラジコン飛行機の設計は、最初から3次元で行うのではなく、まず2次元の図面から始めます。
今回の機体では、主翼の幅であるウイングスパンを約380mm、最大翼弦を約100mmに設定しています。
主翼・水平尾翼・機体側面を2次元で作図する
最初に作図する主な部品は、次の3つです。
・主翼
・水平尾翼
・機体側面
主翼は、設計初期の段階ではシンプルな台形で問題ありません。
翼端の丸みや細かな形状は、設計の最後に調整します。
重要なのは、最初に主翼面積を算出し、その数値を基準として水平尾翼や垂直尾翼の大きさを決めることです。
見た目だけで尾翼の大きさを決めるのではなく、飛行時の安定性を考慮して数値から設計します。
モーメントアームを設定する
モーメントアームとは、主翼付近から尾翼までの距離を示す数値です。
今回の設計では、モーメントアームを約200mmに設定しています。
尾翼の面積が同じでも、主翼から尾翼までの距離が変われば、飛行中の機体に与える影響も変わります。
そのため、尾翼の面積とモーメントアームを組み合わせて、機体の安定性を検討する必要があります。
尾翼容積比を計算して飛行の安定性を確保する

飛行機の設計では、主翼と尾翼のバランスが重要です。
西村氏は、水平尾翼容積比、水平尾翼ファクター比、垂直尾翼容積比を用いて、各尾翼の面積を算出しています。
水平尾翼容積比
水平尾翼容積比は、次の考え方で算出します。
水平尾翼容積比
=(水平尾翼面積×モーメントアーム)÷(主翼平均翼弦×主翼面積)
理想値の目安は、0.3から0.6です。
水平尾翼は、飛行機が上下方向へ不安定になることを抑える役割を持っています。
小さすぎると機体の安定性が不足し、大きすぎると抵抗や重量が増える可能性があります。
水平尾翼ファクター比
水平尾翼ファクター比は、次の考え方で算出します。
水平尾翼ファクター比
=(水平尾翼面積×モーメントアームの二乗)÷(主翼面積×主翼平均翼弦の二乗)
理想値の目安は、1.3から2.2です。
尾翼の大きさだけでなく、主翼から尾翼までの距離を含めて、水平尾翼の効果を確認するための数値です。
垂直尾翼容積比
垂直尾翼容積比は、次の考え方で算出します。
垂直尾翼容積比
=(垂直尾翼面積×モーメントアーム)÷(主翼翼長×主翼面積)
理想値の目安は、0.06から0.08です。
垂直尾翼は、機体が左右へ振られる動きを抑え、進行方向を安定させる役割を持っています。
算出した面積に合わせて水平尾翼と垂直尾翼を拡大・縮小し、設定したモーメントアームの位置へ配置します。
2次元図面から3次元の機体を作る
主翼や尾翼の基本寸法が決まったら、3次元CAD上で機体を立体化します。
内部フレームには、5mm厚のカラーボードを使用します。
部品ごとにレイヤーを分ける
設計時には、次のように部品をレイヤー分けします。
・内部フレーム
・胴体外被
・主翼
・水平尾翼
・垂直尾翼
・補強部品
各部品を色分けしておくことで、部品の選択や修正、分解がしやすくなります。
また、機体全体を最初から左右両側設計する必要はありません。
左右対称の機体であれば、片側半分だけを設計し、後からミラー機能を使って反対側を作ることができます。
これにより、作業時間を短縮しながら、左右の形状を正確に揃えられます。
内部フレームを平面部品へ分解する
3次元で設計した内部フレームは、そのままではレーザー加工機で切り出せません。
そこで、フレームを部品ごとに分解し、それぞれを平面に対して平行になるよう90度回転させます。
さらに、ミラー機能を使って反対側の部品を作成します。
平面化した部品は、レーザー加工機の加工範囲に収まるよう配置します。
ここまで行うことで、3次元の機体構造が、実際にカラーボードから切り出せる加工データへ変換されます。
ペーパークラフトの技術で胴体外被を展開する

今回の設計で特徴的なのが、ペーパークラフトの展開図を作る技術を胴体外被へ応用している点です。
3次元上で作った胴体の外側を、そのまま平面素材から切り出すことはできません。
そのため、立体的な外被を平面へ展開する必要があります。
曲面をサーフェイスへ変換する
まず、胴体外被のレイヤーだけを表示します。
次に、曲面となっている部分をサーフェイスへ変換します。
変換したデータをDXF形式で書き出し、ペーパークラフト用の展開ソフトを使って平面へ展開します。
直線だけで構成された部分は、部品を回転させて平面に合わせたり、三角形へ分割したりして展開図を作成します。
展開した複数のパーツを結合し、EVAシートから切り出せる胴体外被のデータへ仕上げます。
ペーパークラフト設計の経験があるからこそ、複雑な立体形状も、組み立て可能な平面部品へ変換できます。
ラダーとエレベーターを動かす構造を設計する

ラジコン飛行機では、形状だけでなく、尾翼を実際に動かすための構造も必要です。
方向を変えるラダーと、機首を上下させるエレベーターは、サーボモーターとロッドで接続します。
ロッドが通る位置を3次元上で確認する
まず、ラダーホーンを動翼の前縁から約5mmから6mmの位置へ配置します。
続いて、サーボとラダーホーンを結ぶロッドを3次元CAD上で作図します。
ロッドが胴体内部のどの部品と交差するかを確認し、ロッドを通すための穴を設計します。
側面から見た図だけで判断するのではなく、異なる方向から3次元的に確認し、ロッドと部品の正確な交点を算出します。
算出した位置に、約8mm×5mmの長方形の穴を作図します。
この工程により、組み立て後にロッドが内部フレームへ干渉することを防ぎます。
主翼と尾翼の可動部分を設計する
水平尾翼にはエレベーター、垂直尾翼にはラダー、主翼にはエルロンを設けます。
水平尾翼とラダーの干渉を防ぐ
水平尾翼の動翼部分は、中央をくぼませます。
ラダーについても、エレベーターの動きを妨げないよう、必要な部分を切り欠きます。
部品単体では問題なく見えても、組み立てた際に可動部分同士が接触することがあります。
3次元CAD上で完成状態を確認することで、組み立て前に干渉箇所を発見し、修正できます。
主翼にキャンバーと上反角を付ける
主翼は、最初に台形として展開図を作り、最後に翼端へ丸みを付けて形状を整えます。
さらに、飛行に必要なキャンバーと上反角を形成するため、主翼内部へリブを設置します。
今回のリブは、長さ約280mm、幅約6mmで設計しています。
5mm厚のカラーボードを2枚貼り合わせて使用することで、必要な厚みと強度を確保します。
上反角を持たせることで、機体が左右に傾いた際に、水平姿勢へ戻ろうとする安定性が生まれます。
モーターマウントにダウンスラストとサイドスラストを付ける
モーターは、機体に対して完全に正面へ向けて取り付けるとは限りません。
プロペラの回転や推進力によって生じる機体の癖を抑えるため、モーターマウントに角度を付けます。
今回の設計では、次の角度を設定しています。
・ダウンスラスト:約3度
・サイドスラスト:約5度
ダウンスラストとは、モーターをわずかに下向きへ取り付ける角度です。
サイドスラストとは、モーターをわずかに横向きへ取り付ける角度です。
CAD上でモーターマウント部品を変形させ、必要な角度が付くよう設計します。
このような細かな調整も、完成後に感覚だけで修正するのではなく、設計段階で数値として反映できます。
総重量100g以下に収めるための材料設計
今回のラジコン飛行機では、機体のみの重量を50g以下に抑え、モーターやバッテリー、受信機、サーボなどを含めた総重量を100g以下にすることを目指しています。
使用する材料の目安は、次の通りです。
・5mmカラーボード:A4サイズ約1枚
・1.5mmEVAシート:A4サイズ約4枚
・補強用の紙またはボール紙
各部品を配置した際、この範囲へ余裕を持って収まる部品面積であれば、機体重量50g以下を目指せます。
反対に、部品数や面積が増えすぎれば、完成前の段階で重量超過が予想されます。
CAD上で部品を配置することで、材料の使用量だけでなく、完成時のおおよその重量も事前に管理できます。
CADはアイデアを実物へ変えるための道具
CADというと、工業製品や建築物などを設計する専門的なソフトという印象を持つ人も少なくありません。
しかし、西村氏の設計事例から分かるように、CADは身近な材料を使ったものづくりにも活用できます。
100円ショップで入手できるEVAシートやカラーボードであっても、主翼面積、尾翼容積比、モーメントアーム、可動部分、モーター角度などを正確に設計すれば、実際に飛行するラジコン飛行機へ仕上げられます。
さらに、3次元CAD、展開図作成、レーザー加工機を組み合わせることで、頭の中のアイデアを再現性のある部品データへ変換できます。
一度加工データを作れば、同じ部品を繰り返し製作したり、寸法を変更して別の機体へ応用したりすることも可能です。
「紙の穴」のデジタル設計技術
「紙の穴」の西村眞吾氏は、3次元CADによる設計から、部品の展開、加工用データの作成まで、一連の工程を行っています。
特に、ペーパークラフト設計で培った展開図制作の技術と、3次元デジタル設計を組み合わせている点が大きな特徴です。
模型や立体物を制作する際には、完成形のデザインだけでなく、次の視点が必要です。
・どの材料で作るか
・どのように部品へ分割するか
・どの順番で組み立てるか
・可動部分をどのように設けるか
・加工機で切り出せる形状にできるか
・重量と強度のバランスをどう取るか
西村氏は、こうした条件を設計段階から検討し、実際に制作可能なデータへ落とし込んでいます。
ラジコン飛行機に限らず、模型、ペーパークラフト、試作品、オリジナル立体物など、アイデアを形にする際にも応用できる技術です。
まとめ
今回は、「紙の穴」の西村眞吾氏が行っている、100円ショップの材料を使ったラジコン飛行機のCAD設計について紹介しました。
主なポイントは、次の通りです。
・1.5mmEVAシートと5mmカラーボードを使用する
・主翼、尾翼、モーメントアームを数値から設計する
・尾翼容積比を計算して飛行安定性を検討する
・3次元CADで内部フレームと胴体外被を設計する
・ペーパークラフトの技術で外被の展開図を作る
・レーザー加工機で切り出せるデータへ変換する
・可動部分やロッドの経路まで3次元上で確認する
・機体重量50g以下、総重量100g以下を目指す
身近な材料であっても、設計技術を組み合わせることで、本格的なラジコン飛行機を制作できます。
「紙の穴」の取り組みは、CADを単なる製図ソフトではなく、発想を実物へ変えるための道具として活用している好例といえるでしょう。
模型やオリジナル立体物の設計、ペーパークラフト、レーザー加工用データの作成などを検討している方は、「紙の穴」の活動を確認してみてはいかがでしょうか。
出典:紙の穴総帥「CADの楽しい使い方 100円ショップのマテリアルで作るラジコン飛行機の設計」
原案/技術情報提供:紙の穴総帥 西村眞吾
編集:ハイタッチ・マーケティング有限責任事業組合 職務執行者 柳澤研
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