まず前提となる実態
・2025年、紙の出版物は9,647億円。1976年に1兆円を超え、1996年にピークの約2兆6千億円に達した市場が、ついに1兆円割れしました。
・ただし中身は全く違います。雑誌は前年比10%減で崩れている一方、書籍は5,939億円で4年ぶりのプラス。返品率も31.9%まで改善しています。
・雑誌が叩かれたのは「情報の最新性」を売っていたからで、ここはネットに勝てません。書籍は「専門性」のメディアなので残っている。(弊社調べ)
・一方で書店は1998年度の24,237店から2025年度は9,993店と、初めて1万店割れ。無書店自治体は全国の29.3%です。
① なぜ電子だけではブランディングになりにくいのか
・これは意見ではなく数字の問題です。2025年の電子市場は5,815億円ですが、うち電子コミックが5,273億円。
・では経営者や専門家が出すような“文字もの”の電子市場はいくらか。459億円です。同じ年の紙の書籍が5,939億円なので、紙には約13倍の市場があるということになります。
・「電子が伸びている」のは事実ですが、伸びているのはコミックであってご自身のジャンルではない。ここを混同したまま判断されている方が実に多いです。
・そもそもブランディングとは「自分を知らない人に知られる」こと。ところが電子は検索で辿り着くメディアで、届くのはすでに知っている人。役割が逆なんです。
・コスト面も。電子のみなら編集・ライターを入れても50万円前後。裏を返せば、誰でも何の審査もなく出せるということです。審査を通っていないものは、信用の裏付けにはなりにくい。
・ただし電子を否定しているわけではなく、弊社も必ず出します。紙で認知をつくり、電子で回遊を広げる。順番の問題です。
② 経営者・専門家が紙の本を出す意義
・弊社が最初に必ず確認するのは、目的が「認知拡大」なのか「リード獲得」なのか。ここを決めずに作ると、何も取れない本になります。
・その上で、読者と著者が直接つながれる導線(QRコード等)を必ず入れます。これは後から追加できないので、企画段階で入れておくことが決定的に重要です。
・採用への効果も大きいです。理念や仕事観が伝わることで、応募者の“数”ではなく“質”が変わります。(弊社調べ)
・そして、書く過程そのものの価値。自社の強みを言語化する作業は、経営コンサルを受けるのに近い効果があります。
③ 出版社に採用される企画をつくるには
・まず分母。新刊点数は年間約6万5千点で高止まりしています。市場はピークの半分以下になったのに、作る量だけが減っていない。
・弊社の実感では、重版に到るタイトルは全体の2割程度。残りは初版で終わります。発売が実質テスト販売になっているということです。(弊社調べ)
・だから企画に求められているのは、良い内容ではなく「狙って売れる設計になっているか」。良い内容は前提条件であって、決め手ではありません。
・主語を変えること。「自分が書きたいこと」ではなく「読者がお金を払ってでも解決したいこと」から発想する。「誰の、どんな悩みが、読後どう変わるのか」を一行で言えるか。
・そしてこれが一番言いにくいんですが、実用書・ビジネス書においては売れる・売れないの8割は編集者で決まります。著者ではない。ベストセラーを出す編集者は不思議と高確率で出し続け、売れない編集者はずっと売れない。方程式があるんです。(弊社調べ)
・実用書の編集者は著者・ライター・デザイナーを束ねるプロジェクトマネージャーです。メンバーが一堂に会す機会はないので、全体を設計できるのは編集者だけ。著者にとっては「誰と組むか」が最大の分水嶺になります。
④ 出版業界をどうしていきたいか
独立した9年前から「出版業界は3兆円を狙える」と言い続けています。精神論ではなく、具体的な策が三つあります。
出版社と書店のグループ化
取次が自動配本し、書店は自由に返品できる。返品が送品を上回ると逆ザヤになるので、出版社は送品を積み続けるしかない。これが自転車操業を生んでいます。取次には物流に特化していただき、取引は出版社と書店が直接やるべきだと考えています。弊社は一社の中で両方をやっているので、商品を動かすのに伝票すら出ません。売れない倉庫から売れる倉庫に移すだけです。
バックエンドビジネスの取り込み
書籍の売上だけで見るのをやめ、本からつながる世界をすべてビジネス領域として取り込む。企業出版をマーケティング投資として正当に成立させることです。
海外進出
翻訳権の売買によらず、日本の出版社が自ら海外向けの本を作る。弊社はすでに海外48店舗に卸し、北米・欧州・アジア/オセアニアのAmazonにも出品しています。
実証の場としての書店運営
これらは机上の話ではなく、ふたば書房京都駅八条口店で実証しています。
・同店は2021年2月に閉店予定でした。あれだけ良い立地の書店がなくなるのは業界の財産を失うことだと考え、弊社が全リスクを負って引き受けました。現在は通年黒字化しています。
・改装で入口をフルオープンにしたところ、60年やっている店なのに「こんなところに書店があったのか」と言われました。知られていなかったんです。
・書店の収益構造は厳しいです。書籍の書店マージンは定価の約22%、専業書店の売上総利益率は10年平均で23.25%、営業利益率は平均1%前後とされます(日販『書店経営指標』)。だから効率化だけでは黒字にならない。同店ではデジタルサイネージ6面と広告テーブル5カ所を使った広告事業を新規に立ち上げました。
・ただし書店には営業機能がありません。「広告事業をやればいい」と言っても売る人がいない。だから出版社側がそこを担う。これがグループ化の意味です。
・同店はインバウンド客が3割。インバウンド向けの本はそもそも数がないので、1店舗だけで年間2,000冊近く売れる本もあります。自分たちの店だけで採算が合うなら作る価値がある、ということで企画が生まれ、それを海外にも出している。店舗を持つことは、出版社にとって最強のマーケティングリサーチになります。
主張を本にしたこと
こうした問題意識から、2025年11月に小島俊一氏の『街の本屋は誰に殺されているのか?』をフローラル出版から刊行しました。再販制度・委託販売・発売日協定という出版界の“三つの聖域”に正面から切り込んだ本です。
自社の利益だけを考えれば、出版社がこの本を出す理由はありません。それでも出したのは、業界の問題を業界の中にいる人間が語らなければ、誰も語らないからです。
以上、株式会社日本経営センター 津嶋栄氏に解説していただきました。
電子出版か紙の出版かという二元論ではなく、「出版を経営戦略としてどう活用するか」という視点は、多くの経営者や専門家にとって参考になる内容ではないでしょうか。
フローラル出版(株式会社日本経営センター)では、出版企画の立案から出版、販売、出版後のブランディングまで一貫した支援を行っています。
「自社の知見を一冊の本として形にしたい」「出版社に持ち込める企画書を一緒に作りたい」とお考えの方は、一度相談されてみてはいかがでしょうか。
寄稿:株式会社日本経営センター 津嶋 栄
編集:ハイタッチ・マーケティング有限責任事業組合 職務執行者 柳澤研
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