IPOを目指しても、目指さなくても取り組んでおいた方が良いこと
IPOを目指す場合、必ず整備しなければならないことがあります。
特にIPOに向けて社内の整備を進める場合、主幹事証券会社からの指摘事項は数百件に及ぶ場合があります。
こういった指摘事項をクリアしていったうえで、主幹事証券会社からの推薦をもらい、上場申請を行います。
一方で、IPOをしないから自社では対応する必要がないと考えている事業会社も少なくありません。
今回は、上場する・しないにかかわらず、人事の側面から検討し、整備しておいた方が良いと思われる点をいくつかご説明いたします。
1.総残業時間
2015年の電通社員の自殺事件は、その後の働き方改革関連法の成立や、労働基準法改正の大きな契機の一つとなりました。
その当時、私は3回目のIPO準備中だったのでよく覚えていますが、当時の当面の目標値は、1か月の総残業時間が80時間を超えないことでした。
現在では、時間外労働の上限は、原則として月45時間・年360時間とされています。臨時的な特別の事情があり、労使が合意した場合であっても、無制限に時間外労働をさせられるわけではありません。
ここで、こうした整備を進めるために、どのような証跡を残すかが各社の検討課題となります。
過去にIPO責任者として、コンサルティングで対応した事例を申し上げます。
・貸与したパソコンの動作状況をチェックする
・端末の持ち帰りを禁止する
・データをUSBメモリーなどへ保存して持ち出し、自宅の個人端末で仕事を続ける従業員もいることから、USBへのアクセスを制限する
・業務時間外は社内データベースへのアクセスを制限する
・社内サーバーへのアクセス履歴を残す
ほかにも対応策はありますが、書き出すとさらに増えてしまうため、ここでは一部のみご紹介します。
一方で、制限を加えすぎると、従業員の作業環境まで制限することになります。
そのため、従業員への教育を行い、緊急度の高い対応をする場合を除き、業務時間外には作業を行わないことを周知するといった啓蒙活動も必要です。
あわせて、残業時間を適切に計上していることについて、具体的な根拠を示せるようにしておくことも必要となります。
2.未払い賃金問題
残業代を支払っていないという問題が、しばしば発生します。
原因の一つとして、タイムカードなどによる勤怠管理で、残業時間を15分や30分単位で締め、端数を切り捨てていることから、給与計算時に切り捨てられた分単位の残業時間が累積しているケースが考えられます。
労働時間は、原則として実際の時間を正確に把握する必要があります。
1日ごとに、15分や30分に満たない労働時間を一律に切り捨て、その分の賃金を支払わない取り扱いは認められていません。
特に上場を目指す場合は、実際の労働時間に基づいて、正確に計算することが求められます。
また、上場申請時には、上場申請年の前年度の実績までを提出する必要があります。
私が担当していた際には、急遽、退職者を含めて未払い残業代をすべて計算し、対象者へ連絡を取って事情を説明し、ご納得いただいたうえで差額をお支払いしたことがありました。
こういったケースもありますので、先んじて対応しておいた方が、後から問題が発覚した場合よりも負担を抑えられます。
3.36協定と就業規則
36協定と就業規則は、それぞれ異なる制度です。
法定労働時間を超えて時間外労働や休日労働をさせる場合には、原則として労使間で36協定を締結し、所轄の労働基準監督署へ届け出る必要があります。
また、常時10人以上の労働者を使用する事業場では、就業規則を作成し、労働者の過半数代表者などの意見書とともに、所轄の労働基準監督署へ届け出なければなりません。
就業規則を変更した場合にも、同様の手続きが必要となります。
これらは労働基準法に定められていますが、必要な手続きが十分に行われていない企業も存在します。
就業規則を一度作成したものの、その後に制度変更があっても、変更内容を反映せず、届出も行っていないといったケースが散見されます。
また、先に触れた残業時間の算定方法や、時間外労働に関するルールについても、実際の制度と規程の内容を一致させておく必要があります。
制度を変更すること自体に問題はありませんが、変更した内容と規程、雇用契約、給与計算、現場の運用との整合性を保つことが重要な注意点となります。
4.休職・退職理由
従業員が退職する場合の退職理由も、気をつけるべきポイントです。
従業員がネガティブな理由で退職した場合、退職に至るまでに会社側がどれほど従業員と向き合ったかを説明できるようにしておく必要があります。
そのうえで、会社として必要な対応を行ったものの、就業を継続することが困難であったため退職に至ったという経緯を、説明できることが求められます。
産業医や内部通報制度の整備などにより、会社として従業員の労働環境へ最大限配慮していることや、人事部門がどのように従業員をケアしているかも重要になります。
5.その他
役員の管掌部署を明確にし、社内に明示することも必要です。
また、レポートラインを逸脱した指示が常態化し、正式な指揮命令系統が機能していない状態になっていないかについても、整備しておく必要があります。
適切かつ客観的な人事評価制度を整備し、その評価制度に基づいて、従業員の評価や給与、賞与へ反映することも重要です。
外部から見ても、組織図どおりに会社が機能していることを可視化し、説明できる状態が求められます。
これらは、IPOを行うから必要というわけではありません。
日々の事業活動を行ううえで、組織が機能的に活動するためにも、取り組む必要のある点だと考えます。
まだ組織が整っていない場合、拙速に人員を補強しようとしても、採用した人材が企業のカルチャーに馴染めず、十分に力量を発揮できないケースもあります。
こういった場合には、コンサルタントなど、外部のリソースを活用して整備を進めることも効果的だと考えます。
Keystones株式会社・松田昌也氏について
以上、Keystones株式会社代表取締役・松田昌也氏に、IPOを目指す会社も、目指さない会社も取り組んでおいた方が良い組織整備について解説いただきました。
松田氏は、慶應義塾大学法学部を卒業後、IT企業や複数のベンチャー企業で経験を積み、物流企業では取締役管理本部長を務めました。
経営企画、管理系業務、業務監査、事業再生の各分野で10年以上の実務経験を持ち、広報、マーケティング、基幹システム導入、商品企画など、企業経営に関わる幅広い業務に携わっています。
IPOでは、株式会社アプリックス、株式会社東京一番フーズ、株式会社ズームの3社に関与しました。
内部監査、J-SOX、主幹事証券会社からの指摘事項への対応を含め、上場業務全体のマネジメントを担当し、上場後にはIR責任者として1期を担当。さらに、株主総会の責任者として運営とマニュアル化まで経験されています。
IPO準備だけでなく、上場後のIRや株主対応まで一貫して経験している点は、松田氏の大きな特徴です。
組織体制、経営管理、人事制度、内部統制、IPO準備、事業再生などに課題を抱えている企業は、Keystones株式会社へ相談してみてはいかがでしょうか。
寄稿:Keystones株式会社 代表取締役 松田昌也
編集:ハイタッチ・マーケティング有限責任事業組合 職務執行者 柳澤研
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